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海洋冒険小説の家

海洋冒険小説の家

(9)そのあと、権大納言


   (9)

 「包囲されてる本願寺と有岡城(注1)はほんとの所どうでっしゃろ?」
 「有岡城はもうあかん、兵糧がつきてしもた。もうすぐ落城や。本願寺ももう兵糧を城の中に入れる方法がないさけ、あと1年もつかどうか。溜め込んだ五万石の米もかなり食いつぶしているやろ。そのうち禁裏より、勅命がでて、和議を結ぶことになるやろな」
 そうか、久しぶりに堺に帰ってくるとかなり状況が変わっているのだな、と思う。
 「そういえば、堺政所の友閑殿と今井宗久殿が留守していましたなあ」
 「それはそうや、京から安土に、信長殿についていったときいてるで」
 「な~んでも知ってはるんやからかないまへんわ」
 助左衛門が言うと、またみんな笑った。
 あと、九州と四国の情勢について助左衛門は手短に説明した。帰りの寄港地の薩摩の坊津(ぼうのつ)と土佐・中村の下田港で得た情報である。九州は薩摩の島津氏の勢い強く昨年末には日向一国を手に入れ、薩摩、大隈、日向の三国のあるじとなり、今は豊後と肥後にしきりに兵を出して、大友義鎮氏配下の兵と小競り合いをしていること。四国では長曽我部元親氏が土佐を統一したあと、阿波半国を切り従えたことなどを話して会合は終わった。

 次郎丸は、朝早くから忙しい目にあってすこしイラついていた。弟の五郎丸が風邪で熱を出し、それで彼は母から医者を呼びに行かされるやら、水をくみにやられるやら、大変な目にあっていた。今日は打毬の試合があるため、堺の住人たちはこれを楽しみにして使用人たちも朝暗いうちから暇をとって毬技場に出かけていた。それで、家には人がいなかったのだ。
                     (続く)
[注1=ありおかじょう、荒木摂津守の立て籠もっている城]


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